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記念すべき第1話、というべきでしょうか。実はこの第1話、第2話『ジェノバの少年マルコ』より後から作られたそうです。マルコの母、アンナ・ロッシがアルゼンチンに出稼ぎに行ってから1年後、ジェノバで明るく逞しく生きるマルコ少年を描いたのが、その第2話なのですが、制作途中でやはり別れのシーンがいるだろう、というのが経緯らしいです。これから一年間、母を尋ねて遙か彼方の国、アルゼンチンにまでのマルコの苦難の旅を描くのですから、観客に悲しい別れのシーンを見せておくのは、当然の判断といえると思います。
こういう事を言うのは単なる懐古主義と思われがちで誤解を招く可能性が高いのですが、あえて言わせて頂きます。この第1話から、現在のTVアニメにこの緻密さは望めない事が分かります。細かいエピソードを重ね、その一つ一つは、それ程物語性イベント性を感じる物ではないにも関わらず、それが観る物の心を打ちます。一つ一つのシーンで、画面に登場する人物たちすべての胸の内が、全て明瞭に分かるからです。
この回のドラマ性は、母親の出稼ぎを知っている人達と、ただ一人知らないマルコのギャップです。
視聴者はこのアニメのタイトル、1話のサブタイトルから、母親との別れが待っている事が分かります。マルコの食事を馬車で済ますよう提案するトニオ、マルコのねまきにほおずりをするアンナ(図1)、一人つぶやくカルロ、そしてピクニックを無邪気に喜ぶマルコ。これらの描写で観客は、知っている者達と知らない者のギャップを、さり気なく知る事が出来ます。非常に自然で説明的でなく、見事な表現です。ここから観客は、その後のエピソードを自然に理解する事が出来るのです。
昔の苦労を語るアンナに苛立つトニオ、そんな兄の態度を不思議に思うマルコ。このシーンも、無邪気なマルコに悲しみを感じる名シーンですが、そのすぐ後の狐の親子のシーンはもっと良いです。
狐の親子の事を語りながら、実は自分たちの想いをマルコに告げるアンナとピエトロ。これから待ち受ける辛い運命を乗り越えてもらいたいという、彼等の想いが観る物に伝わります。一つ一つの台詞が、何を指しているのかが、見事に伝わってきてこのシーンを感動的な物としています。また、音楽も良い。
そう、音楽です。この作品のレイアウトを担当している宮崎駿が、高畑勲を『音楽と勉強が趣味』と評していますが、超が頭に幾つも付く程の音楽ファンの高畑監督ですから、その作品の音楽はどの作品もそれは素晴らしい物です。勿論、当作品でも心に染みる音楽が、沢山沢山出てきます。このシーンでは、曲の入るタイミングが本当にまさしく絶妙でして、その瞬間胸にググッと来ました(図2)。
別れの事実を知った後のマルコの心の動きもまた、非常によく伝わってきます。最後の別れの時まで、癇癪を起こし、怒り、悲しみ、頑なな態度を崩さないマルコ。人の心動きを緻密に計算し、その計算を元に的確にそして分かりやすく表現する。高畑監督の凄さは、こういった部分にあります。特に重要なのは、分かりやすいという点です。
そして最後の最後に悲しみを爆発させ、船を追いかけるマルコ。眼はアンナから離れず、高低差の大きさにも気づかず、アンナが悲鳴を上げるほどマルコは転びます。その転び方が実に痛々しい。
そして最後に、必ず母親を迎えに行くとマルコは誓い、第1話は終わります。
とにかく、高畑監督の演出の凄いところなのですが、キャラクターが何を考え何を感じているか、凄く良く分かるのです。上でも言いましたが、その分かり易さが何と言っても素晴らしい。
私はコミケ等で作品を発表しているアマチュア漫画家なのですが、こういう心理描写には非常に憧れます。しかし、心理描写を専らモノローグに頼ってしまいます。私のような素人と、高畑監督を比較するのは馬鹿馬鹿しい事ですが、演出だけで分かりやすい心理描写をする事が、いかに凄い事かと実感しながら、作品を書いています。(今後はモノローグに頼らない、心理描写がしたいなぁ…)
高畑監督の凄さは、人間の心を表現する演出力にあり、時には作品が演出だけで完結する事も珍しくない監督です。時には、ストーリーらしいストーリーすら存在しない作品も、決して少なくはありません。それにより、いまいちメジャーになりきれない面があるのも、否定出来ない事実でしょう。でも、そんな高畑作品が、私は大好きです。
地味な作品と評される事が多いのですが、その分何回観ても面白い、シーンシーンの人々の心が観る物の心を打ち続ける作品になっているのです。複数回の鑑賞と言えば、ロッシ家のピクニックのシーンで、この後準主役的なキャラクターとして活躍する、少女フィオリーナが登場していますが(図3)、フィオリーナを知った後にこの回を見直せば、更なる味わいを感じる事が出来ます。ただ、ホームビデオなど無いこの時代の作品で、こんな演出をやっても無駄なのではないかという疑問も湧いてきますが…(笑)
ところで、この回最大の名シーンを挙げるとすれば、やはり親子狐ですね。この作品全体で語られるテーマを、素晴らしく表現しています。
何はともあれ、そんな高畑演出への想いを、この作品のコラムを通じて、言及していきたいと思います。長丁場のコラム連載になると思いますが、何とかやり遂げられれば良いのですが。(笑)
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