| マルコの親友エミリオ。この回は、彼がその親友っぷりを遺憾なく発揮してくれる回です。正しく男の友情と呼ぶに相応しい物です。しかし、最近のアニメではなかなか男の友情物語が楽しめませんよね。女の子の友情では、おジャ魔女シリーズがあったりしますけれど…このシリーズ、男の子同士の話しも少しは出てきますが、そこは少女向けアニメ、ちょっと違うな〜と思いますね。まぁ、おジャ魔女に男の友情を求める方がどうかしていると思いますが…(笑) まずは、苛々するマルコで幕が開きます。苛々する理由は簡単で、前回描かれたアンナの手紙です。アンナが病気を患ったという内容の手紙でマルコは、アンナを心配する気持ちが爆発していまい、第9話でした、ピエトロとの約束を完全に忘れてしまいます。まぁ、無理もありませんが。1人家で悶々とするマルコですが、そこへフィオリーナが訪ねて来ます。ペッピーノ一座は、まもなく移民船でジェノバを発ちアルゼンチンに向かうのです。だから、アンナへの手紙などを届ける為、マルコからそれらを預かろうと来ます。そんなフィオリーナに、マルコとは辛く当たります。 マルコはアルゼンチンに行けるフィオリーナが羨ましく、フィオリーナはマルコとの別れが近い事が悲しい、そんな両者の気持ちが、このシーンでは非常に良く伝わってきますが、このシーンで特に良いのは声の演技ですね。マルコの『母さんに持っていって貰う物なんて何にも無いよ』と言う時の語尾に強くかかる涙声。マルコに追い出された後、ドア越しに『さようなら、マルコ』小さく寂しげに呟くフィオリーナ。共に素晴らしい。このシーンは、マルコとフィオリーナの悲しみが伝わってくる、名シーンですが、やはり私もアニオタな所為か、フィオリーナの悲しみの方が胸を打ちますね。こんなアニオタが多いから、男の友情物アニメが減るのです(笑)。女の子には冷たいマルコですが、この後やってくるエミリオにはやたらと愛想がいいです(笑)。この年代の男の子らしいと言いますか…もっとも、マルコの希望であるアルゼンチンへの渡航へ前進する、良い話しを持ってきたからとも言えますが。エミリオは、この日ジェノバにやってくる飛行船を見に来る、観光客相手のアイスクリーム売りの話しを持ってきます。この飛行船の話しは、何で読んだかは忘れましたが、宮崎駿のささやかな抵抗だと聞いています。あまりにも自分の好みからはずれた、宮崎駿から見れば辛気くさい話しが続く中、空飛ぶ機械が大好きな彼が、飛行船を描く事によって少し憂さを晴らしたみたいです。 さて、このアイスクリーム作りの話しですが、非常に細かく丁寧、かつ楽しげに描かれています。何かを友達とやる行為は、実に男の子っぽくて、良いですね。しかも高畑監督特有のリアルな描写で描かれていますから、楽しさもひとしおです。まずは、マルコのへそくりが良いです。マルコはビン洗いの仕事で得たお金を、しっかりへそくっていますが、その隠し場所の描写が凝ってます。まず椅子を取り出しますが、この上に乗るのかなと思わせながら、何故かそれにエミリオを座らせます。そして、エミリオの体重で椅子を固定した後、マルコは背もたれに乗り、非常に高い位置に隠してあるへそくりを取り出します(図1)。こういう仕掛けが、出来るのも高畑監督の演出方針がしっかりしているからです。これは宮崎駿が言っているですが、高畑監督の映画は、連続した空間と時間がしっかり描かれており、彼はモロに影響を受けているのだそうです。こういった描写が自然かつ面白く見えるのも、空間をまず設計し、その中できっちりと人を動かしているからで、これがキチンと描かれていなければ、こういったシーンの面白さを見せる事が出来ないでしょう。ただ、このへそくり、マルコ1人でどうやって隠したのかは、謎が残りますが(笑)。 これ先も、アイスクリーム作りの描写は続きます。せっかくアイスクリーム作りの機械を調達するエミリオですが、これが可動部分が錆び付いて動きません。不安になるマルコをよそに、色々と調べ何とかしますが、この時のマルコへの指示がまたリアル。油差しと工具箱をマルコに渡しながら『歯車のところにこの油をたっぷりと差して、後は金槌で叩きながら少しずつ動かしていく』と説明するエミリオ。この後エミリオは、牛乳と氷を買いに行ってしまい、場面が変わりますので、マルコが機械を直す描写は画面には登場しません。しかし、これだけ詳しく説明されている事から、すっかり調子の良くなった機械を見るだけで、マルコの仕事ぶりが非常に具体的にイメージできます。また、エミリオが買い物から帰ってきた時、桶を洗っているマルコが、働き者のマルコのキャラクターと、この仕事に意欲的である事を、両方を表現していて、キャラクターに厚みを増しています。この時のエミリオとの会話も、男の子っぽくて良いですね。飛行船飛行の時間が近づき、海辺がイベントムードで盛り上がる中、2人はアイスクリーム作りにいそしみます。アイスクリームは、牛乳と砂糖を冷やしながら攪拌して作るのですが、この時温度を下げるのに、塩を入れるのですが、これがまたリアルで良い。なかなか固まらなくて、不安になる2人も雰囲気が出ていて、そこに更にイベントが近づいている描写が入っている為、スリルが増します。そんな苦労もありまして、遂にアイスクリームが完成しますが、これがまた旨そうなのです(図2)。久しぶりに出ましたね、グルメ演出家高畑勲(笑)! で、この後色々あります。飛行船は上がりますが、突然雷雨が襲ってきて、イベントは中止しかかります。この時の逃げまどう人々から、アイスクリームを守るマルコとエミリオが痛々しい(図3)。結局は守りきりますが、観光客は1人もいなくなり、アイスクリームを売って一儲けというプランは、頓挫しかかります。ここで痛々しいのは、エミリオが買い物をする時お金の話しが出ていますので、このままだと赤字(29リラ)である事が、観客にキチンと伝わってくる事です。マルコのへそくりが10リラ7ソルドですから、全然足りません。前回も書きましたが、高畑演出は質が悪いので(笑)、このままアイスクリーム売りは失敗するという展開でも、全く不思議はありません。でも何故か、雨は上がり飛行船は飛び、アイスクリームは売れます(笑)。いや、実に気持ち良く売れますね。三千里でこんなに上手く物事が運ぶなんて、凄く珍しいのではないでしょうか(笑)?ちなみに、ビスケットにアイスが乗せてありますが、これもなかなか旨そうですね(図4)。気持ちが良いのはこれだけではなく、祭りこそが稼ぎ時のペッピーノ一座も、アメデオの共演もあり受けます。でも、一番気持ちが良いのは、フィオリーナとの和解ですけどね。アイスクリームを売るマルコにスッと近づいて、手伝いを申し出るフィオリーナ。それを受け、朝の無礼な行為を詫びるマルコ。アルゼンチンに行くペッピーノ達が羨ましかったから、辛い態度で当たってしまった事を、素直にフィオリーナに謝るマルコですが、それを『わかってた』とサラリと受けるフィオリーナが素敵です。更に、そんな事気にしてない言わんばかり黙々と手伝うのが、またまた素敵です。フィオリーナのマルコへの好意が伝わる、名シーンといえるでしょう。人の労働という物を、表現の中で非常に大切にしている高畑監督らしい描写と言えるでしょう。他のアニメでは、労働をする人間の描写は殆ど見れませんので、労働する人間が、アニメでこれほど魅力的に見える描写になるとは、なかなか気付きません。本当に、ここでの働くフィオリーナはかなり魅力的ですよ。一生懸命ビンを洗うマルコも良かったですが、アニオタオヤジの私としては、ここでのフィオリーナはかなりポイントが高いですね。フィオリーナのマルコに向ける眼差しも、優しさに溢れていて素敵です(図5)。 この後、アイスクリームの売り上げを全て渡すエミリオと、港での別れを誓うエミリオが、マルコとの友情表現を、更に畳み込みます。この回と次の回が、エミリオとの友情を観客に強く伝える回と言えるのですが、彼のあまりにも熱い友情が、最終回の伏線にもなっているのです。全52話の三千里ですから、最終回は遙か後です。しかし、ここで印象づけられた彼の友情が、最終回の一言にピッタリ結びつきます。最終回まで観客が忘れない印象を、作っているのです。これだけ書いていると、爽やかさだけが目立つ回に見えますが、そこは高畑監督、そうは問屋がおろしません(笑)。エミリオとの港でのシーンの前に、アイスクリームのあがりを足しても、移民船の船賃30リラに足りない事から、港町の裏事情に顔の利く男レナートに、エミリオは交渉しに行きます。このレナートという男が、まぁいかにも胡散臭そうな奴なんですわ!次回に向けて観客を不安にさせる事も、きっちり忘れていないのでした。しかもその不安が的中するのがまた酷い(笑)。 さて、今回最大の名シーンですが、アイスクリームを作る過程ですかね。本当は爽やかな感動という点では、フィオリーナとの和解なのでしょうが、こういうどうって事のない出来事を、これだけ面白く描かれている作品は、滅多にある物ではありません。ですから、希少性を考慮に入れてこのシーンを挙げたいと思います。 |
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