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第23話第25話

第24話『待っててくれたフィオリーナ』

 遂にマルコはボカにやってきます。やはり三千里は、貧民街、貧民の描写にこそ力が入っており、またそれが非常に魅力的です。三千里に登場する人物は、『金持ちの良い人』『金持ちの嫌な奴』『貧乏で良い人』『貧乏で嫌な奴』と大まかに分けて、以上の4つのタイプに判れます。

 その中で、『貧乏で良い人』が、最も沢山登場します。勿論、三千里の人間描写の凄さが、これらの人物の表現に注ぎ込まれて、三千里で魅力的な人物の殆どがこれです。

 『貧乏で嫌な奴』は、しばしば登場します。ブエノスアイレスでマルコのお金をすったスリとか、マルコとエミリオを、移民船に乗せると騙そうとした、レナートなどがそうですね。

 『金持ちで嫌な奴』も、アルゼンチンに来てからしばしば登場するようになりますが、これらの描写が素晴らしく見事ですね。そしてそれが実にリアル。高畑監督は三千里の前番組の『フランダースの犬』の事を、主人公をただ悲惨にする為だけの悪役が登場する事などを批判してますが、高畑監督が描くこれらの悪人を観れば、彼がそういう意見を言うのも、納得が出来ます。

 『金持ちで良い人』となると、これが実に少ない。終盤に登場する、メキーネス兄弟を含めて僅かしか登場しません。そして、ちょっとここが気になるところですが、どうも『金持ちで良い人』の描写が弱いような気がします。キャラクターがいまいち立って無い、とでも言えば良いのでしょうか。そこら辺は、左翼プロレタリアートである、高畑監督の限界なのでしょうか?(笑)

 そういえば、『アルプスの少女ハイジ』でも、この『金持ちで良い人』にあたる、クララの父親と祖母は、私的にはかなり嫌なキャラでした。あの、不自然な位に物分りが良すぎるところが、駄目です。あの人達と生活するくらいでしたら、強面のアルムおんじの方が遥かに良いです(笑)。

 それはそうと、ボカという街について少し書きたいと思います。私にとってボカといえば、何と言ってもリバープレートと並んで、アルゼンチンで最も人気の有るサッカーチーム、ボカジュニアーズですね。コパリベルタドーレスカップを2年連続で制し、2000年、2001年、連続でトヨタカップ出場に来日した事から、馴染みの深い日本人も多いでしょう。また、日本代表にしばしば選ばれる、高原直樹が以前在籍していたチームである事も有名です。2000年ではレアルマドリーに勝ち、2001年ではバイエルンミュンヘンに敗れましたね。

図1、スペインレストラン さて、このチームのサポーターは滅茶苦茶熱く、国立競技場で大暴れでした。レアルマドリーのファンで、そのユニフォームを着て観戦しようとした日本人が、自分の席がゴール裏のボカサポーター席だと知って、真っ青になり直ぐにユニフォームを脱いだそうです。またある人は、アルゼンチン人と一緒になって、ボカの応援をして、その手馴れた応援に、感心したそうです。帰りの飛行機で、勝利の喜びで暴れまくって、アメリカで逮捕されたり、プレイボーイのインタビューで、『ワールドカップとトヨタカップ、一体どっちが大切なんだ?』という質問に『トヨタカップだ、何故ならボカが出ているからだ』と、実に愉快な回答をしたりと、実に楽しい人達です。

 ボカのあるブエノスアイレスは、1887年の国勢調査によれば32.1%がイタリア移民で、三千里の時代設定の1883年〜1884年を考えれば、ボカの住民の多くがイタリア移民と考えられます。ボカジュニアーズは、1905年に結成され三千里の僅か20年後です。今回登場するイタリア移民達も、ボカジュニアーズの結成の時には、きっと何らかしらの協力をしたでしょうし、チームが勝利した日は、お店で散々ドンチャン騒ぎをした事でしょう。

 三千里の面白いところは、考証設定が非常にキチンとしている為、このような事を調べるのが実に楽しいところです。今回登場するジェノバっ子達が、愛する地元チームの勝利に熱狂する姿は、本当に容易に想像する事が出来ますね。ボカジュニアーズはリバープレートと比べ、貧民層に愛されているクラブチームですから、今回の三千里のボカの描写を観ると、非常にシックリ来る物があります。

図2、イタリアレストラン さて、その貧しい者達が集う町ボカの描写ですが、絵的に素晴らしい雰囲気を醸し出しています。港の俯瞰図、魚を水揚げする労働者、ゴミゴミした町並み、どれもこれも良い感じです。始めマルコは、スペイン料理店に間違って入ってしまいますが、そちらの方が綺麗な町にあります(図1)。それに比べてジェノバ料理の店は、ずっと汚い場所にあるのです(図2)。元々は、スペイン領だったアルゼンチンですから、恐らくスペイン人の方が良いところに住んでいたのでしょう。

 ただ、店の中の人々は、そんな事なんか気にもかけていない、明るいジェノバっ子達が集っています。この先のストーリーでも、ロサリオを離れるまでは、多くのイタリア人達が、同郷だからという理由だけで、マルコを助けてくれます。この郷土愛みたいな感情が、三千里のテーマの一つにもなっていまして、勿論原作に比べてば少ないのですが、決してイタリアの愛国心がテーマから抜かれているわけではないのです。ただ、日本人が楽しむには、原作のイタリア愛国心が強すぎるから、若干味付けをマイルドにしてあるというのが恐らく正解でしょう。今回のマルコに色々な情報を与えてくれる、ジェノバ料理店でのシーンは、独特の暖かみが画面に溢れていて、始めに行ったスペイン料理店との雰囲気が明らかに違い、良い対比となっています。

図3、(;´Д`) フィオリーナタン ハァハァ ところで、ここに集っておっさん達の雰囲気が、いかにもその後ボカのサポーターとかになっても、全然違和感無いの人達で、実に楽しいですね。みんな凄く声が大きいし(笑)。ここでのマルコに色々教えてくれるシーンが、イタリア人らしい明るさに溢れていて、気持ちが良いです。また、おっさん達のしゃべり方というか雰囲気というか、もうどうしようもなくおっさん臭くて、久しぶりにオヤジアニメ三千里のテイストを存分に味わえて、実に良いですな(笑)。

 嫌なオヤジも登場しますね。あの、移民局の役人の嫌らしさと言うか、無責任さというか、そんな感じが実にナイス。すぐに明日明日と言うところとかが、役人的無責任さがあってリアルですね。初めは老婆を避ける為にマルコをだしに使って、マルコの方が鬱陶しくなると、今度は老婆をだしに使うところなんかは、実に良い感じでした。

 オヤジといえば、今回忘れてはいけないのは、ペッピーノですね。ペッピーノの相変わらずの性格には、久しぶりの登場だからでしょうか、妙な懐かしさを感じて楽しいですね。マルコよりもアメデオの方を重要視しているところとか、バイアブランカがどこか知らないのに安請け合いするところとか、そんでもって、なす崩しに行く羽目に陥いるところとか、ペッピーノ一座の未来に対して楽観的なところとか、それについての迷(?)演説とか。こういう台詞回しとかの統一感も、やはりシナリオが深沢一夫だけで書かれているからこそなのでしょう。

図4、もひとつ、(;´Д`) フィオリーナタン ハァハァ ところで私は最近、『あずきちゃん』のDVDボックスを購入しまして、この作品は全117話中116話が、雪室俊一によって書かれていまして、そういう意味では三千里同様シリーズの統一感は非常に取れていると言えます。雪室俊一自身も、ほぼ全話執筆出来た数少ない作品として、非常に愛着があるようです。実際問題、三千里のように1人の人間が全話演出したり、全話作画監督したりとかは、まず無理でしょうけれど、せめてシナリオ位は1人の人間に書かせるようにする事は出来ないのだろうかと、疑問に思ったりもします。

 日本のTVアニメは、各話の違いを楽しむという楽しみ方も、ポピュラーではあるのですが、やはり私としてはある回はボロボロだけど、ある回はTVアニメの水準を超えているような、某アメリカ大手アニメーション会社にぱくられた、青い宝石をモチーフにした、半裸の黒人の女の子が主人公のアニメのような物よりは、シリーズ全体の完成度が高い物が好きですので、もっと増えても良いのではないかと思います。雪室俊一も全話シナリオを書ける、実写のTVドラマのシナリオライターが羨ましいと言ってました。そういった制作システムを作るのは、そんなに難しいのかなぁ…

 ところで、オヤジマンセーも決して悪くありませんが、私を含むアニオタにとって、今回の話しは久方ぶりにフィオリーナが登場する、(;´Д`) フィオリーナタン ハァハァ出来る非常に重要な回でもあります。しかも、今後しばらくはずっと登場しますので、凄く嬉しい!(笑)高畑監督は、こういうファンは嫌いだと思いますが、はっきり言って知った事ではありません(爆)。

図5、肉〜旨そ〜 今回最大の名シーンもやはり、当然フィオリーナのシーンで選ぶのは、アニオタとしての当然の義務です(笑)。ジェノバ料理店で、コンチエッタの強い押しでバイアブランカに行く事が決まった時の、マルコと手を取り合って喜ぶシーンも捨て難いですが(図3)、ベンチで寝ているマルコとの再開を、選ばざるを得ないでしょう。この時のマルコの顔を覗き込む、泣き顔のフィオリーナは実に素晴らしい(図4)。正しく(;´Д`)ハァハァであります(爆)。いえ、普通に感動のシーンとしても素晴らしいんですけどね。ところで、目の中でハイライトを揺らす涙目の表現は、『太陽の王子ホルスの大冒険』の時に、高畑勲が発明した手法でもあります。

 それにしても、市場での焼肉のシーンは、実に美味そうで良かったなぁ…(図5)物欲しそうにしているマルコが、良い味を出してますね。さすがグルメ演出家高畑勲、といったところでしょうか。

©NIPPON ANIMATION CO.,LTD. 1976

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