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第37話第39話

第38話『かあさんだってつらいのに』

 ババア、ババア、糞ババア!!!今回の三千里はこれに尽きますな。三千里には4種類のキャラクターが登場すると、常々書いてきましたが、『金持ちの嫌な奴』の決定版が今回登場する、アンナが昔働いていたロハス家の糞ババアです。三千里内どころか日本アニメ界でも屈指の嫌な奴といえるでしょう。作劇に登場する悪役には2種類あって、悪の魅力で観客の共感を得る物と、観客のとってもむかつく悪役ですが、明らかに今回の物は後者です。いやはや、よくぞここまでの嫌な奴を描写できる物です。三千里は何回も観ている作品ですが、いつ観ても新鮮な嫌悪感を与えれくれますね(笑)。

 冒頭から飛ばしてくれます。たかが膝掛けが落ちたくらいで、いちいち使用人を呼びつている事で、観客は嫌な予感を持ちます。そして上手いと思いますが、ここでAパートが終わります。私が観ているのはDVDですが、本来のTVであればここでCMが入りますから、CMの間観客はどんな奴が現れるのだろうかと、想像を巡らす事ができます。

 ところで、私の漫画の師匠は、作品が完成するまで、決して作品の内容についての話をしません。書いてる途中では、つい人に内容を話したくなる物なのですが、そこはキチンと我慢するのだそうです。それ理由について彼は、一部内容を話す事によって、読者は想像してしまうのですが、その想像以上の物を書くのは、非常に困難である事を言っています。ですから、作品が完成するまでは、内容はおろか書いている事すら人には話さないのだそうです。

図1、見よ!これが上流階級が飲むお茶だ!!! それを考えると、このババアの糞っぷりの描写は本当に凄いですね。CM後に登場するこの糞ババアが、視聴者の想像を遙かに超える、凄まじい糞っぷりを見せてくれます。息子に向かって、母親に対してあれほどの罵詈雑言をぶつけるのも凄いのですが、その根底にあるのが、金持ちを鼻に引っかけている幼稚な精神性が、ちゃんと垣間見えるのが素晴らしい。色々とこの糞ババアの名台詞はありますが、やはりこの精神性が一番出ている台詞、『どう、私達が飲むお茶を、一度くらいは味わってみたい?』が良いですね。ここでミソなのが、”私”ではなく”私達”と言っているところです。これから、この糞ババアが世の中の人間を『金持ち』と『貧乏人』の2種類でしか考える事しか出来ず、勿論自分は『金持ち』側の人間で、そして『金持ち』は『貧乏人』を見下す権利を持っているという、訳のワカラン考え方に支配されている事が出来るのです。でも、ここで飲んでいる紅茶は、凄く美味そうなのは確かですね(図1)。これがまた、ババアの嫌味っぷりに花を添えていると言えるでしょう。

 当然マルコは怒って帰ってしまいますが、その背後に浴びせる罵倒が”一言多い感”を醸し出してますし、マルコがいなくなってからの台詞も、追い打ちという感じで実に良いです。そしてこの悪役、作劇上の悪役は、悪役の為の悪役というのをしばしば見かけますが、そうでは無く非常にリアリティがあるのが良いですね。こういう嫌な奴は、本当にいるかはともかく、いかにも現実に存在しそうです。ここら辺は、『フランダースの犬』を批判する、高畑監督らしさと言えるでしょう。ところでマルコですが、どうせ夜にはロサリオに向けて旅立つのですから、紅茶を頭からぶっかける位の事をしても良いのにと、ちょっと思いますね(笑)。アメデオをけしかけ、顔を引っ掻かせるのも悪くないかと…(爆)しかし、アンナ同様現在の使用人である、ナターリアの忍耐力もなかなかの物ですなぁ。もっとも、アンナ、ロシータ同様、彼女もいつかはやめてしまうでしょうけど(笑)。

図2、木漏れ日も美しい… この後、第23話で登場したシスターとの再会になりますが、それの為の繋ぎとして、公園のシーンがあります。マルコは、フィオリーナと再会した公園で、シスターの一団を目撃して、それでシスターシュプリアナの事を思い出すのですが、繋ぎの為に用意されたシーンが、実に素晴らしい名シーンとなっています。繋ぎのシーンにこれだけの名シーンを用意しているのが、三千里の凄いところと言えます。ここでは、音楽の使い方が本当に素晴らしい。

 このシーンは、マルコの行動としては、以下のように分割する事が出来ます。

1,アメデオに連れられ、嬉しそうに、懐かしそうに、公園を見回すマルコ。

2,フィオリーナと再会したベンチを見つけ、真剣な面もちになるマルコ。そして、ベンチがマルコの視点で写され、少しずつアップになる。これで、マルコの気持ちが思い出のベンチに集中している事を表現。

3,思い出に集中して微動だにしないマルコが、マルコの主観的な時間は止まっている事を表現。しかし、その間アメデオを動かす事によって、客観的な時間は動いている事がわかる。

4,ベンチに近寄るマルコ。俯瞰視点で、木を見上げるマルコ(図2)。ベンチに腰掛けるマルコ。


 そして、それに対応する音楽は以下のように対応します。

1,ストリングスの静かな伴奏の上にかぶさる、アコーディオンのイントロ。

2,はっきりとワルツのリズムが刻まれるようになります。主題に入る前の繋ぎの部分。

3,伴奏のストリングスが、そのまま主題に。甘く流れる、美しいストリングスのメロディー。

4,主題がストリングスからリコーダーに。

 特に観客の胸を打つのは繋ぎの『2,』の部分でして、マルコの嬉しそうな表情から、真剣な表情になっていく、マルコの気持ちが移り変わるタイミングと、音楽のタイミングが非常にシンクロしていて、マルコの気持ちが観客にも伝わってきて、感動を呼びます。。実に見事な音楽演出で、さすが高畑監督と大きく唸らされますね。音楽が有名なアニメは『宇宙戦艦ヤマト』等いくつかありますが、三千里の評価で音楽の素晴らしさがあまり耳に入ってはきません。もっともっと、評価されて欲しいとファンとしては思いますね。

図3、シスターに抱かれ、甘えるマルコ 繋ぎのシーンが終わり、シスターとの再会のシーンになりますが、ここでのマルコはシスターに甘えるマルコは妙に可愛く、特に再会したときの、シスターに抱かれた時、マルコの甘えた声が無闇に可愛いです(図3)。シスターが『コルドバは田舎どころか、それはそれは古い歴史を持つ、アルゼンチンでは一番由緒がある都なの』と言っている事から、先ほどの糞ババアに言われた事を、シスターに愚痴っている事が伺えるのが、また良いです(笑)。

 ちなみにコルドバは、1573年、スペイン人ヘロニモ・ルイス・デ・カブレーラによって創始された古都で、パンパの西側に位置するアルゼンチン第2位の都市です。ブエノスアイレスよりも早く栄え、学問、文化の中心地として発展してきました。街の中心地には古いイエズス会の教会があり、日々、人々が礼拝に訪れているそうです。イエズス会はローマ・カトリック教会に所属する男子修道会の一つで、コルドバには、イエズス会系列の大学として、コルドバ・カトリック大学(1956年創立)があります。イエズス会系列の大学としては、日本では上智大学が有名ですね。アルゼンチン最古のコルドバ大学(1611年創設)もあり、古い教会や修道院などの、スペイン植民当時のコロニア風館も多く残っています。キューバ革命で知られる、チェ・ゲバラは、喘息の療養の為、この地で少年時代を過ごしていたそうです。

 う〜ん、こうしてみると、糞ババアとシスターシュプリアナの評価が、全く正反対なのも非常に納得できますね(笑)。ところで、このシーンでの、あまりにも優しいシスターシュプリアナは、さっきの糞ババアと素晴らしいコントラストを示し、観客の心を癒しますね。スイカはただ食べるのではなく、塩をかけると甘みが増すのと同じ理屈ですな(笑)。

 高畑アニメと言えば音楽、というのは常識(?)ですが、公園のシーンと同様の素晴らしいシーンが、今回ではあります。ポスコ夫婦との別れのシーンですが、ここでの音楽の使い方も、公園のシーン同様、実に素晴らしいシーンとなっています。リコーダーのメロディーが美しい音楽が流れますが、淡々としたAメロからより盛り上がるBメロへ入ります。Aメロの間は、マルコとポスコ夫妻は色々と最後の話をします。そして、Bメロに入ると最後の別れの挨拶をします。そしてここが凄いと思うのですが、最後にマルコが『さよなら』とポスコ夫妻への最後の別れの言葉をつぶやく瞬間に、曲はマイナーコードの響きを聞かせます。この音が別れの寂しさが絶妙に演出していて、ここで観客の心はグッときます。間違いなく、高畑監督は計算してやっていますね。はっきり言って、上手すぎです。素晴らしい!

図4、アンドレア・ドリア号 別れがあれば、出会いもある。マルコが乗るアンドレア・ドリア号ですが、私の記憶では、『紅の豚』にも登場してたような気がします。ですから、この船に関しては、誰の趣味だかは一目瞭然ですね(笑)。三千里は作品内容も影響して、ただ辛いだけの作業だったそうですが、せめてものストレス解消だったのでしょうか、実に泣ける話しです。アンドレア・ドリア号は、三千里では商船で(図4)、実在する客船もありますが、やはりイタリア軍艦が好きな宮崎駿に敬意を表して、ここは軍艦を紹介したいと思います。私の友人で、元海上自衛隊員がいるのですが、この人に色々教えてもらいました。今回の話をしたところ、メールで情報を送ってくださったので、それを掲載したいと思います。彼は歴史も非常に詳しく、私の歴史の先生でもあります。


アンドレア・ドリア号。


初代

ルッジェーロ・ディ・ラウリア級戦艦(中央砲塔型)
起工1882. 1. 7
進水1885.11.21
竣工1891. 7. 1
除籍1911. 5.25

 オーストリア帝国との戦争により弱体化した艦隊の再建のため建造された装甲艦の最終グループ。第一次大戦前に除籍されているため、戦績は皆無である。

要目
常備排水量
 11,204t
全長
 105.9m

 19.8m
兵装
 431mm27口径連装砲*2
 153mm32口径単装砲*2
 120mm32口径単装砲*4
 356mm魚雷発射管*2
速力
 17ノット
乗員
 士官17名・下士官兵489名
同型艦
 ルッジェーロ・ディ・ラウリア,フランチェスコ・モロシーニ


2代

カイオ・デュイリオ級戦艦(ド級戦艦)
起工1912. 3.24
進水1913. 3.23
竣工1916. 3.13
1932年予備艦
改装着手1937. 4. 8
最就役1940.10.20
除籍1956.11. 1
1961年解体

 対トルコ戦争中の計画艦であり、また、フランスのブルターニュ級戦艦に対抗すべく建造された戦艦。竣工〜改装の間の戦績は皆無である。また、1940年11月12日のタラント空襲時は最就役後の練成途上のため、ポーラに在泊中であり被害を免れている。1941年〜1942年初頭にはイオニア海においてしばしば英国艦隊と交戦しているが被害・戦果ともに僅少であった。1942年夏以降は深刻な燃料不足のため1943年のイタリア降伏まで、繋留保管扱いされていた。イタリア降伏に際してマルタ島へ脱出、連合軍管理下に置かれるが、1944年6月にイタリア海軍の管理下に復している。

要目(竣工時)
常備排水量
 22,964t
全長
 176.1m

 28m
兵装
 305mm46口径3連装砲*3
 305mm46口径連装砲*2
 152mm45口径単装砲*16
 76mm45口径単装砲*13
 76mm40口径単装砲*6
 450mm魚雷発射管*2
速力
 21ノット
乗員
 士官44名・下士官兵850名

要目(改装後)
常備排水量
 29,374t
全長
 186.9m

 28m
兵装
 320mm44口径3連装砲*2
 320mm44口径連装砲*2
 135mm45口径3連装砲*4
 90mm50口径単装砲*10
速力
 27ノット
乗員
 士官73名・下士官兵1,450名

同型艦 カイオ・デュイリオ


3代
アンドレア・ドリア級ヘリコプター巡洋艦
竣工1964. 2.23
除籍1993. 9.30

 地中海における艦隊防空・対戦防御担当艦として建造された。ヘリコプターを対潜戦の主兵装とした世界最初の艦である。以降、各国の同種艦艇の設計に多大な影響を与えた。海上自衛隊の護衛艦「はるな」型も本級を設計のタイプシップとしている。

要目
常備排水量
 5,000t
全長
 149.3m

 17.2m
兵装
 テリア対空ミサイル連装発射機*1    
 76mm62口径単装砲*8
 324mm3連装単魚雷発射管*2
 SH-32G対潜ヘリコプター三機 またはAB-204対潜ヘリコプター4機
速力
 31ノット
乗員
 500名


4代
ジュゼッペ・ガリバルディ級軽空母

 当級に関しては、建造が継続中の新鋭艦であるため、手持ち資料が見つかりませんでした。

 さて、音楽の素晴らしさが際立った今回ですが、最大の名シーンと言えば、冒頭でも述べたとおり、糞ババアしかないでしょう。もう、むかついてむかついて、しょうがないです(笑)。

©NIPPON ANIMATION CO.,LTD. 1976

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