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第43話第45話

第44話『フアナをたすけたい』

 私は当サイトにて、三千里のキャラクターのカテゴリーは大まかに分けて、『金持ちの善人』『金持ちの悪人』『貧乏人の善人』『貧乏人の悪人』の4種類である事を、何回か言ってきました。勿論、非常に練り込まれたキャラクターの登場する三千里ですから、厳密にはこんな簡単に分類できないのでしょうが、大まかにならば大体正解では無かろうかと、考えています。そして、『金持ちの善人』のカテゴリーに分類されるキャラクターは、魅力的なキャラクターが星の数ほど登場する三千里において、残念ながら魅力が薄いと言わざるを得ないとも、書いてきました。私がそういった印象を一番強く感じるキャラクターの一人が、今回冒頭で登場する、アンナが奉公している農業技師、ラモン・メキーネスの従兄弟、ビクトル・メキーネスです。ちなみに、ラモン・メキーネスにも、私はあまり魅力を感じません。

 ビクトルのストーリー上の役割は、前回の盲目の紳士の役割と非常に良く似ています。盲目の紳士の役割は、マルコがフアナにお土産を買ってきて上げる為のお金を、提供する事にありましたが、ビクトルの役割は、瀕死のフアナを救う為の医療費を、マルコに提供する事にあります。この二つを比較しましょう。盲目の紳士のお金→フアナの飴玉。ビクトルのお金→フアナの医療費。当然、起こるイベントの印象度は、前回に書いた通り、フアナの飴玉は非常に印象深いシーンなのですが、フアナの命のかかった今回の方が強い物と言わざるを得ないでしょう。更に、それぞれの出会いの比較もしましょう。盲目の紳士→不動産事務所の前で唐突にぶつかる。ビクトル→マルコが探す、ラモン・メキーネスの従兄弟。つまりは、キャラクターの出会いの必然性も、ビクトルとの出会いの方が、遙かに高い物だと言えます。つまり、役割、必然性においては、盲目の紳士よりもビクトルの方が、観客にとってより強い意味合いを持ったキャラクターといえるのです。

図1、インディオの雰囲気溢れる、見事なキャラクターデザイン しかし、結果としてお互いのキャラクターとしての魅力を比較した場合はどうなのでしょうか。観客の感じ方は、それぞれ違いますし、特に高畑作品は観客に対し多様な見方が出来る客観性を備えていますので、必ずしも私が感じた物が、私以外の観客にも当てはまるわけではありません。しかし、盲目の紳士に比べ、ビクトル・メキーネスのキャラクターの魅力は、低いと言ってまず差し支えないのではないでしょうか。キャラクター性を示す描写が足りないわけではありません。マルコにお金が無い事を知ったビクトルは、汽車賃をマルコに渡そうとします。他人の施しを嫌がる傾向があるマルコは、そのお金を受け取るのを躊躇しますが、『送り返してくれればすむ事だ』との気遣いをビクトルは見せます。勿論その台詞は、本当にお金を返して欲しいわけではなく、マルコが素直に好意を受け入れられるようにする為の、ビクトルの優しさです。第40話『かがやくイタリアの星一つ』での、フェデリコが見せた気遣いにも似た優しさを見せているのですから、描写が足りないから魅力が出ない、というわけでもないのでしょう。しかし、少なくとも私が感じるビクトルの印象は、今まで述べた通りです。こういった考えは、ちょっとうがちすぎなのかもしれませんが、高畑監督の思想性、ブルジョアvsプロレタリアート的な思想が、ここに反映しているのかもしれないと、邪推してしまいます。

図2、インディオとは思えない、近隣の住民 ところが、そんなプロレタリアートの高畑監督が演出したこの回なのに(笑)、パブロ、フアナが住むサンイシドロ地区の描写の方にも、若干疑問を感じるシーンがありました。パブロもフアナも2人の爺さんも、当然インディオです。顔つき、コスチュームデザイン、ともにインディオの雰囲気溢れる、非常に良いデザインと言えます。特に、爺さんの顔は、非常に雰囲気が出ていて、秀逸なデザインと言えるでしょう(図1)。しかし、フアナの病気を心配して、集まった近所の面々は、誰一人としてインディオと思える人間はいませんでした(図2)。ここに私は若干の違和感を感じました。

 勿論、歴史的な事実として、サンイシドロ地区がインディオの集落であったのかどうかは、私は知りません。もしかすると、あそこに住むインディオがパブロ一家である事は、歴史的には別におかしくも何とも無いのかもしれません。しかし、そうであるならば、それを表す演出が必要なのではないでしょうか。三千里では、同郷の物たちが寄り集まり、助け合って生きている様が描写されています。第36話『さようならバイアブランカ』のドメニコの台詞からも、アルゼンチンにイタリア人よりも早くに入植しているスペイン人達も、同胞で寄り集まっている事が伺えます。であるならば、先住民族でありながら、苦しい生活をインディオ達は、やはり寄り集まり助け合いながら生きていると考えるのが、やはり普通なのではないでしょうか。ですからここのシーンは、フアナを心配する住人達は、やはり同族のインディオであるか、サンイシドロ地区がインディオの生活地区ではなかったという事実があるのなら、それを示す描写が少しでも存在させるのが、他の作品ならいざ知らず、三千里なら必要だったのではないかと、愚考するのです。この手の描写が凝っているのが、三千里の魅力なのですから。私が考えるに、あまりにもきつすぎるスケジュールが、そこまで手を回す余裕を無くしていたからだと思います。

図3、強い思いを胸に秘め、フアナの為にお金を差し出すマルコ なんか、高畑ネット解説以来の、激辛コラムになってしまいましたが、この回がつまらなかった訳ではありません。勿論、面白い部分は多々あります。その中でも特に印象深いのは、あれだけの想いを込めた母親への想いをかなえる為の命綱とも言える、ビクトルから貰った汽車賃を、フアナの命を助ける為に差し出してしまうマルコである事に、異論を唱える三千里ファンは、少ないのではないでしょうか。

 伏線という意味では、前回突然降った雨が、前回においてはラストシーンの虹の開放感の伏線であるが、同じ物でフアナが瀕死の状態になってしまう伏線である作り方にも、今回の上手さを感じます。しかしそれ以上に、ピエトロとアンナが多くの犠牲を払いながら目指す理想と、コルドバまでの汽車賃を与えてくれた同胞達の恩を返す機会である事、この二つが、お金を差し出すマルコの行動となっているこのシーンの方が、より素晴らしい物を感じ取る事が出来るでしょう。

 コルドバの医者達は、当然ながら、ピエトロの診療所のような特別な医者達ではありませんから、サンイシドロ地区のような貧民街の患者を診てくれません。パブロの台詞からも、マルコが訪ねる二件の医院でのあしらいからも、厳しい現実を見せてくれます。

図4、マルコの声など、まるで聞こえないそぶりの受付嬢が… そして、その現実を受け止めながら、偉大なる決心をもって、フアナの命を助ける決断をするのです。このお金を差し出すマルコが、今回最大の名シーンだと言えますが(図3)、このシーンまでの医者達の態度、一件目では、途中までは心を惹かれた医者の表情と、サンイシドロ地区という名を聞いた瞬間の態度の変化、二件目では、忙しいと言っておきながら、お金を見た瞬間に見せる、受付嬢の態度の変化が(図4,5)、このマルコの決心を非常に際立たせる意味を持っていて、マルコの決断の素晴らしさが非常に光ります。この事前の積み重ねが、マルコの決断を、今回最大の名シーンにしている理由の1つなのだと思います。またマルコのこの時の『先生にもう一度、そう頼んでみてください』と、医者の嘘を知り、それを判っていながらも”もう一度”という台詞が、胸を打ちますね。

 ところで全くの余談ですが、最近の日本の医療の現場を思うと、今回の話しは若干人ごとでは無いような気もします。サラリーマンの医療費負担は増えるようですし、特にTVで個人事業者などが加入する国民健康保険は、保険料を滞納すると保険証を取り上げられようになった事を報道していました。日本の健康保険制度がピンチである事は、ずいぶん前から色々報道されていましたが、ここ最近になって、具体的な形になって見えてきたのではないでしょうか。

 私は、子供の頃から病気がちでしたので、病院には良く行ってましたので、医療の充実の大切さは非常に強く感じています。どうも多くの人々が、自分が病気になってしまう事を、あまり意識していないように感じます。少し他人事感が強いのではないかと、心配しています。あまり気楽に考えていると、今回の三千里のような事態が、これからの日本で頻繁に起こるようになるかもしれない、という危機感は持っておいた方が良いように思うのですが、いかがでしょう。

図5、お金を見て豹変 こういう話しをすると、大抵政府を批判する方に行きがちですが、私が考えるのはそうではありません。この例で考えるのならば、何故保険料滞納者から、保険証を取り上げるようになったかです。もしかすると、あまりにも悪質な滞納者が非常に多いから、政府もやむを得ずに、今回の措置に繋がったのかもしれません。もしそうであるのならば、批判されるべきは政府ではなく、悪質な滞納者という事になります。(勿論、政府が悪い可能性もあります)政府を悪者に考えるのは、非常に楽な考え方ですが、それに流されずに、正しい観察眼を持つ事が大事だと愚考しますが、みなさまはどうお考えになりますか。ただ、これを実現する為には、正しい情報源が必要ですが、どうも、メディアは今や完全に第4の権力になっているだけで、大衆の代弁者にはなってないように感じます。こうした状況で、正しい判断をする為の情報入手は、なかなか難しいの現状ではと思います。

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