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第1話『アルムの山へ』

 パソコンの故障からようやく復帰しました。今週からハイジコラムを始めたいと思います。最終話まで頑張りたいと思いますので、皆様どうかよろしくお願いします。さて、三千里コラムの連載を終了させて、振り返って思いましたが、コラム中に高畑監督の批判を結構書いているんですよね。ですが、コラム全体を見れば褒めている。三千里コラムが、読み物として優れた物になっているかどうかは、自信があるとは中々言い辛いのは、正直残念ではあるのですが、私がこの作品が大好きである事は、ちゃんと伝わっているだろうと、これだけは自信を持って言えます。

 これって、個人的には結構面白い事だと感じました。普通に評論文を書きますと、まぁ大概は褒めるか、けなすかになる訳です。ある作品に非常に感動し、それを絶賛する評論文を書こうと思った場合、当然沢山の褒め言葉で、文章を綴ることになります。しかし、僅かながら気に入らない部分があり、それについての批判を文章に入れたら、その評論文は書き手の絶賛したい気持ちを、読み手に的確に伝えられなくなる可能性があります。僅かな批判が、絶賛している印象を奪ってしまうのです。絶賛はしたい、でも良くなかった部分だけは批判もしたい、この気持ち双方を短い評論文で書くのは、難しい事だと思います。

 その点を、私の三千里コラムはクリア出来ていたと思います。この効果が生まれた理由は、やはり全体の文章量の多さでしょう。三千里の評論文はそれこそ沢山あると思いますが、この一作品の感想に費やされた文章量は、結構多かったと思います。その文章のほとんどが、賛辞に使われているため、僅かな批判が、三千里を絶賛したい私の気持ちを伝えるのに、障害にならなかったのでしょう。全話のコラムを書く事にどういう意味があるのかは、始める前はよく判りませんでしたが、最後までやってみて、こういった表現が可能であった事は、収穫だったと思います。ハイジコラムも、このような内容になるよう、頑張っていこうと思います。

図1、トマシュ 三千里コラムでは、毎回1番の名シーンを1つピックアップする事を、連載の指針としました。それの理由としては、とにかく三千里には名シーンが多く、この作品の素晴らしさを伝えるのに、このやり方が適当と思ったからです。これは、連載コラムとして、それなりの面白さを示す事が出来たと思いますので、ハイジコラムでも何らかの指針を示したいと思います。三千里コラムでは原作未読が原因の失敗をしましたので、ハイジコラムについては準備として原作を事前に読みました。全部読んで思った事は、原作とアニメの相違点は思ったよりも多かった事です。ですので、原作との違いをピックアップする事を、ハイジコラムの指針にしたいと思います。

 高畑監督のTV作品で代表的な物は、『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』の3作品ですが、ほとんどの高畑作品同様、全てに原作があります。各作品を原作と比べると、一番原作に忠実なのが『赤毛のアン』、一番原作から離れているのが『母をたずねて三千里』、『アルプスの少女ハイジ』はその中間である事が判ります。ですから、ハイジにおける原作との相違点のピックアップは、量的には毎回取り上げるネタに成り得るのではと思いますし、また相違点に高畑監督の作家性が如実に表れているので、『高畑勲ネット』のコラムとして適当だと思います。ただ、実際に書いてみないと判らない部分もありますので、現時点の指針である事を述べておきたいと思います。思ったより面白くならないと判断した場合は、やめる可能性もありますので、御了承ください。

図2、リンダ(左)とネーサ(右) では、そろそろ本題のハイジ第1話のコラムに取り掛かりたいと思います。ここでの原作とアニメの相違は、小さいところでは登場人物の差です。原作では、ハイジ、デーテ、アルムおんじ、ペーター、バルベルですが、アニメでは途中までハイジとデーテを馬車に乗せてくれるトマシュ(図1)、デリフリ村に住むデーテの友人、ネーサとリンダが追加されています(図2)。ネーサとリンダとについては、今後もしばしば登場しますが、噂話などから村人達がハイジやアルムおんじがどう思っているかを説明する為に作られたキャラクターだと思われます。残念ながら、三千里に見られる、ほんのチョイ役なのに圧倒的な存在感を見せるような物ではありません。

 この部分だけではなく、少なくともこの第1話を見る限りでは、2年後の三千里に比べ完成度は低いと思います。ハイジは30年も昔の作品とは思えないほどの完成度と面白さを、今も誇っているとは思いますが、時々古さが垣間見えることがあります。今回では、着ている服を脱いで、下着姿になったハイジと、その姿に笑ってしまうペーターのシーンに見られます。ヤギ達と一緒に飛び跳ねるペーターのシーンは(図3)、今見ると露骨に古く見え、ちょっと気になりますね。ただ、高畑監督を中心としたメインスタッフにとっては、このハイジが本格的に取り組んだ初めてのTVシリーズですから、辛すぎる評価なのかもしれません。ハイジのメインスタッフは、美術監督が井岡雅宏から椋尾篁に変わっていますが、それ以外は同じスタッフで作っていますので、ハイジでの経験が、次回作三千里の完成度に貢献していると見るほうが、適当なのでしょう。

図3、山羊たちとはしゃぐペーターに、ちょっと唐突さを… 原作との相違に話しを戻しますが、今回一番大きな変更と言えば、アルムおんじの過去についてです。デーテとバルベルとの会話で説明されるのは同じなのですが、まず説明する人間が逆です。アニメでは、バルベル→デーテ、ですが原作では、デーテ→バルベルです。また、話している内容も違います。アニメでは、人殺しをした事があると語っていますが、観客から見れば、アルムおんじに対する印象の悪さから生まれた、噂レベルの物と解釈できる程度の表現です。しかし原作では、もっと詳細に説明されています。

 好奇心にかられたバルベルが、デーテに執拗に迫り根負けしたデーテが話すという作りになっています。アニメとは違い、他人のバルベルではなく身内のデーテが話しているのですから、当然噂レベルの話しではなく、読者は事実として認識します。話しの内容も、非常に細かいです。この説明によると、アルムおんじははっきり言ってまともな人間ではありません。特に気になる部分は、立派な農場の息子だったのに、博打で身を持ち崩し、農場を失ってしまった事と喧嘩で殺人を犯している事です。はっきり言って、罪深き人であり、あまり好感の持てる人物ではありません。

 ところが、アニメのアルムおんじは確かに偏屈爺さんではありますが、決して好感の持てない人物という訳ではありません。それは、ハイジがフランクフルトから戻って来た後の、人当たりが良くなってからもそうですが、その前の山から下りてこない時期もそうです。無口で偏屈で世捨て人ではありますが、力強く逞しく男らしく、ハイジやペーターに対する態度から、根っからの悪人ではない事が見て取れる、非常に魅力的な人物として描かれています。

図4、この立体的なレイアウト、素晴らし〜! アニメのハイジは原作の持つ、キリスト教的教訓の部分を意識的に削っていますが、この変更もその1つでしょう。随分先の話しになりますが、アニメでのアルムおんじは、フランクフルトから字を覚えて帰ってきたハイジを見て、教育の大切さを悟り、山を降りる決心をしますが、原作では違います。原作のハイジは、クララの祖母の布教が功を奏して、敬虔なキリスト教徒になって戻ってきます。そして、罪深きアルムおんじに神の教え説き、自分の罪の重さを悟ったアルムおんじが、教会に行き、涙ながらに牧師や村人と和解をするというストーリーになっています。

 キリスト教的要素を削るのであれば、この原作のストーリーは変えなくてはなりません。ここを削れば、つまりアルムおんじは、改心しないのですから、罪深き人として設定されていれば、物語の最後まで罪深き人のままです。これでは非常に都合が悪いわけですから、初めから罪深き人では無い事にしなくてはなりません。ですから、殺人を犯しているという設定を、身内のデーテではなく、他人のバルベルに言わせて、曖昧にしているのだと思います。

 個人的な感想を言いますと、私は神の教えを熱心に説くハイジや、神の教えに目覚めるアルムおんじに、強い違和感を感じます。ハイジのような原作も人気がある作品のコラムを書いて、こんな事を言うと非難轟々な気がしますが、”原作のハイジは本物のハイジではなく、アニメのハイジこそが本物である”、とすら思っています。原作よりも2次著作物を本物だと言うのは、暴論中の暴論だとは思いますが、個人的な感想と言う事で御容赦ください。

図5、見よ!この素晴らしい色を! 暴論ついででなんですが、私は高畑作品で元となっている原作は、あまり好きな物はありません。ハイジも三千里もアンも、原作にあまり魅力を感じていない事を、白状しておきたいと思います。ですので、この連載コラムでは、原作に対して否定的な意見が出てくると思いますので、原作が好きな方には不愉快なコラムになるかもしれない事も、今のうちに言っておきたいと思います。これも、あくまで個人的解釈ですので、御理解願います。

 さて、最後に画面の話しをして、第1回を締めくくりたいと思います。本編の話しでは無くOPなんですが、冒頭のアルペンホルンが鳴っている時の画面が、本当に凄いと思います。俯瞰のレイアウトは(図4)、さすが天才レイアウター宮崎駿って感じですし、アルプスの美術は今これだけの絵を描ける人いるの、って位美しいです(図5)。井岡雅宏は早くに亡くなってしまいましたが、本当に残念な事だと思います。

©ZUIYO

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